ASTRAXな人たちの宇宙人生劇場/Episode 12.1 宇宙ビジネスコンサルタント | 大貫美鈴さん
飛行機に乗って海外旅行をするように、宇宙船で旅する“宇宙旅行時代”が間もなく訪れようとしています。ASTRAXに出合い、宇宙を舞台に夢を実現しようとしている人たちは、普段は何をしていて、どのようなことをきっかけに宇宙とかかわるようになったのでしょうか。宇宙に活躍の場を広げようとする“ASTRAXな人たち”をご紹介します。

気がついたら、宇宙ビジネスコンサルタントになっていた

前編:まるでビッグバンのように宇宙の商業化が進む中で

今やIT企業や通信事業会社をはじめ、ロケットや衛星の開発とは無縁だった企業も宇宙旅行や小型衛星など宇宙の商業利用に熱い視線を注いでいます。アメリカで宇宙ベンチャーの熱気を目の当たりにし、以来、宇宙ビジネスの只中に身を置いてきた大貫美鈴さん。どのようなきっかけで宇宙ビジネスとかかわるようになったのでしょうか。前編では、大貫さんと宇宙ビジネスとの出会いとコンサルタントの仕事についてご紹介します。


宇宙開発が政府から民間へ。事業開拓と市場開拓が必要に
── 宇宙ビジネスコンサルタントとはどのようなお仕事ですか?
今までの宇宙開発は主に各国政府の予算で行っていました。企業にとっては政府が顧客です。ところが今、民間による商業の宇宙開発、宇宙事業が活発に行われるようになったことで、マーケット、つまり市場が必要になったんです。2017年の世界の宇宙エコノミー、いわゆる世界の宇宙の売り上げは383Bドルで前年の330Bドルから飛躍的に伸びました。そのうち、政府の売上、すなわち、政府予算で行う宇宙開発は全体の20%を切りました。宇宙の商業化が進んでいることがわかります。商業の宇宙開発では、ロケットや衛星を製造する機器産業ではなく、プロダクトやサービスの売り上げが激増しています。商業の宇宙開発では市場を獲得して、事業として成立することが求められます。宇宙ビジネスコンサルタントとして、市場開拓や事業開発を行っています。

── 政府と民間の宇宙開発はどこが違いますか?
民間の宇宙事業では、市場を創出、獲得、拡大しなければいけないとともに資金調達が必要になります。自分の持っている資産であったり、エンジェルやベンチャーキャピタル(VC)から資金を調達します。日本では政府の宇宙予算の約3000億円とほぼ同じ約3000億円が宇宙機器産業の売上になり、1割程度しか政府予算以外のマーケットを捉えてきませんでした。もっと宇宙を利用して商業を広げていくのが、宇宙ビジネスの立ち位置です。今では、金融のスペシャリストも宇宙産業界に入ってきており、資金調達の仕組みづくりや政策作りを支援しています。

アメリカで宇宙ベンチャーの熱気を目の当たりにして
── 宇宙にはどのようなきっかけでかかわるようになったのですか?
私は理数系を避けてきたこともあり、清水建設で宇宙開発の部署への配属は希望したものではありませんでした。宇宙開発部署では、企画や調査の担当でしたが、仕事が面白くなったのは、宇宙ホテルの提案をして、宇宙での、衣・食・住・遊すべてにかかわることになってからです。さまざまな職業の宇宙に関心の高い人で“女性宇宙フォーラム”を作り、宇宙での着るもの、食べるもの、それからアートについて、NASDA(現JAXA)との共同研究として取り組みました。「宇宙でのふだん着」プロジェクトは、無重力における衣服内環境を考慮、宇宙特有の前かがみの姿勢に対応した衣服デザイン、さらに科学的、医学的な見地から着心地を追求した宇宙でのふだん着や下着の開発を行い、日本人宇宙飛行士によって着用されました。これら抗菌、防臭、防汚、あるいは速乾、吸汗効果のある繊維技術はシャツや下着などの商品化によって地上の市場もとらえています。

── 宇宙ビジネスのコンサルタントとしての活動はどのように始められたのですか?
清水建設を辞めて2003年からボストンに1年間いたんです。ちょうどアンサリXプライズ(有人弾道宇宙飛行を競うコンテスト)の達成期限の前年で、当時のブッシュ大統領が2選目に向けた選挙年でした。ブッシュもと大統領はテキサス出身で、宇宙政策も選挙中からアピールしていました。この頃、民間の宇宙開発も勢いづいていて、そういう時期に宇宙ベンチャーの動きをアメリカで目の当たりにして、民間はすごいなと思いました。ボストン滞在中、日本から調査の仕事を頂いていました。ワシントンDCではさまざまな宇宙関係の公聴会が開かれていて、その公聴会を聞いたり、連邦宇宙航空局(FAA)の商業宇宙の担当にヒアリングに行っていたのが、今につながっています。
帰国してJAXAに数年勤めていましたが、2004年にアンサリXプライズでスペースシップ1の宇宙飛行達成を見た時の衝撃が忘れられず、商業を立ち位置にして宇宙開発に関わりたい、と独立しました。民間の宇宙開発の時代の到来を確信していました。

縁あっていただいた課題は愛おしい

ジェフ・ベゾスが設立したブルーオリジン社の有人宇宙船、ニューシェパード。打ち上げ実験で回収された第1段目のロケットとクルーカプセル

── 宇宙ビジネスがビッグバンのように急拡大する、大変な状況の中で仕事をされていらっしゃいますが。
ふだんはあまり意識していませんが、今、ここに居合わせているのがすごいことだと感じています。イーロン・マスクとかジェフ・ベゾスとか、1000年に1人ぐらいしか現れないといわれている世界最高の実業家が宇宙産業界にいる、すごいタイミングだということに感動します。
2000年ぐらいからメガエンジェルの宇宙投資が始まりましたが、それまではアメリカでも宇宙に投資をするのは政府だったり、GEO衛星オペレーター、あってもエンジェルがガレージでロケットを開発するロケッティアに投資するのがせいぜいでした。今では「フォーブス」が毎年発表する富豪ランキングで20数人が宇宙に投資をしたり企業して宇宙事業をしています。ジェフ・ベゾスは毎年1Bドルを宇宙事業に投資しています。これらビリオネアの影響力と資金が入っているというのは大変なことが起きていると言えると思います。
宇宙投資という面では、ITジャイアントやVCそして今、銀行、保険会社、政府系金融機関などの機関投資家の宇宙投資も盛んになってきました。
── 大学は文系と伺っていますが、宇宙という技術がかかわる分野でのお仕事でご苦労されたことは?
楽観的なので、クライアントから頂いた課題はその瞬間に好奇心がわき、愛おしくなります。文系で専門がないので360度開けているとも言えると思います。縁を大切に感じています。

── 依頼を断ることはないのですか。
できない、と断ったことはないかもしれません。思いもしない課題をいただいたときは、逆に企業にはそういう課題があるんだ、と考えて、縁あって自分のところに来た課題だと思うと、気になって仕方ありません。なぜ自分に依頼があるのか不思議ですね。ただこれまで提出したものを突き返されたことはありませんし、クライアントが離れていったこともありません。

プロフィール

大貫美鈴(おおぬき・みすず)
宇宙ビジネスコンサルタント。スペースアクセス株式会社代表取締役。
清水建設に勤務後、米国で宇宙ベンチャー企業の熱気を目の当たりにして帰国する。
JAXA(宇宙航空開発研究機構)勤務を経て独立。現在は宇宙ビジネスコンサルタントとして、世界中を飛びまわる日々。
著書に『宇宙ビジネスの衝撃』(ダイヤモンド社)、『来週、宇宙に行ってきます』(春日出版)など。
http://onukimisuzu.com/