ASTRAXな人たちの宇宙人生劇場/Episode 16 Galactic Market代表|加藤太郎さん

飛行機に乗って海外旅行をするように、宇宙船で旅する“宇宙旅行時代”が間もなく訪れようとしています。ASTRAXに出合い、宇宙を舞台に夢を実現しようとしている人たちは、普段は何をしていて、どのようなことをきっかけに宇宙とかかわるようになったのでしょうか。宇宙に活躍の場を広げようとする“ASTRAXな人たち”をご紹介します。

Episode 16 Galactic Market代表|加藤太郎さん

月面に和風旅館を! 宇宙旅行サービスで起業するという選択

僕の生きる道はサラリーマンじゃない、と気が付いた
── 宇宙旅行に関わる活動をされていらっしゃいますが、宇宙にはもともと興味があったのですか?
プラネタリウムが好きなんです。名古屋の科学館に大きなプラネタリウムがあって、子どもの頃は父によく連れて行ってもらいました。都市では本物の星はよく見えませんが、プラネタリウムの星空はきれいです。その頃は、宇宙へは訓練をした宇宙飛行士とか、すごい資格を持っている人とか、特別な人しか行けないものだと思っていました。その後、起業を目指し、何をしたいか突き詰めて、これからの成長産業としての宇宙事業、その中でも宇宙旅行に行きつきました。

── なぜ、起業をしたいと考えたのですか?
自分で事業をしたいと思ったのは、中学生ぐらいの時です。きっかけはある譬話です。おじいさんが若者に「3億円あげるから死んでくれ」と頼みますが、若者は「死ぬんだったら使う暇がないからいやだ」と断ります。「では分割にするよ」とおじいさんは提案しました。分割というのは、「40年かけて3億円払うから、40年経ったら死んでくれ」ということです。これはサラリーマンの生涯賃金の譬えで、3億円もらって死ぬというのは僕には受け入れがたく、自分で会社を起こして、自分自身の力で生きていくことが重要だと気付きました。
その後、いろんな経営者の方に、これからどんなことをやったらいいのか、インタビューさせていただきました。その中で皆さんに共通していたのが、人を扱うのが一番難しい、人を雇って思い通りに動いてもらうのが一番難しいということでした。それなら最初に就職するのは、修業として人を扱う分野にしようと、大学卒業後は塾の先生になりました。子どもたちに嫌な勉強をやる気になってもらうことができれば、大人にも仕事にやる気を出してもらえるようになると思ったんです。塾の先生は夜しか仕事がないので、昼はこれから成長する分野の仕事をしてみようと、Web会社にも勤めました。塾では、子どもたちの面倒を見てスタッフ教育も任され、昼はWebのプログラミングなど技術的な仕事をしていました。Web会社も塾も2年ぐらい勤めました。

このままでは彼女ができないという危機感から、転職そして独立へ
── 昼夜二足の草鞋から、どのように独立を果たしたのですか?
Web会社では、1日に人と話す時間が5分ぐらい。あとはパソコンに向かって黙々と1週間ホームページを作る毎日でした。ある時「このままでは彼女ができないぞ」と気が付いたんです。そこで社長に、人と話せるようになりたいと相談したら、飛び込みの営業をやるといい、とアドバイスをもらいました。そこで、ゲーム会社に入って飛び込み営業の仕事に就きました。もともとコミュニケーションは上手な方ではないので、ストレスでちょっと太りました。そのうち塾がつぶれ、生徒のケアなど、会社をたたむのに1か月程かかり、その業務のため、ゲーム会社は辞めざるを得ませんでした。
次の仕事を探す時、適度に人と話す仕事はないかと検索で見つけたのが、今のWebディレクターのポジションです。お客さんと1週間のうち3日ぐらい話し、2日間は設計図を描いたりして人と話さない、ちょうどよい仕事を見つけて、Web会社に就職しました。そうしたところ、僕がディレクションしたサイトのオーナーさんが、以前勤めた会社の社長と友達だったのが縁で、向こうからお誘いをいただいて戻ることになったんです。そこがたまたま船井総研さんと取引があり、打ち合わせに同行して、船井流の手法を聞きながら、Web上でどうやってマーケティングをしていくかということを勝手に学びました。その時27、8歳。このままいくと3億円の人になるぞ、と思い、独立をしようと決めました。

── 独立する時、宇宙事業、中でも宇宙旅行を選んだのはなぜですか?

業種は何でもよかったんです。ただ起業する際のポイントとして、船井流では、成長産業であることが大変重要で、宇宙はもともと好きでしたが、需要はあるけれど供給量が少なすぎる、だから宇宙事業は絶対伸びると思って選びました。ただ、なぜ宇宙をやりたいのか、という根源的な質問を自分に投げかけた時に、今まで仕事をやってきた中で、僕が一番仕事のやりがいを感じる瞬間は、自分がいいと思ったものを提供して、「そうだね、それいいね」と言われた時なんです。それを宇宙で実現できるのは、宇宙旅行に添乗員として一緒に行った時だと思いました。宇宙から地球を眺めた時に、宇宙飛行士は、宇宙から見たら国境がないので、皆の地球だという気持ちになるそうです。そういう体験をした人をひとりでも増やしたい。一緒に行って地球を眺め、「加藤さん、皆の地球ですね」「でしょ?」と言いたいですね。そのためだけに今、宇宙事業の活動をしています。
ただ最初は宇宙事業の知識がなく、誰か知っている人いないか、知り合いをたどってお会いしたのが、民間宇宙飛行士の山崎大地さんでした。宇宙事業は経験の延長線上でできる部分がないので、宇宙旅行会社に就職してみたいと話すと、そういう会社はないので作っちゃえば、とアドバイスをいただきました。
ハードではなくソフトを提供する発想で広がる、宇宙ビジネスの可能性
── 宇宙ビジネスの話を山崎さんから聞いたときの印象はいかがでしたか?
はじめは大変驚きました。宇宙ビジネスといえば機体開発のイメージしかなかったので、ハードなところからサービスというソフトをどうするかという発想が、恥ずかしながらWeb屋なのにありませんでした。パソコンに対するソフト、スマートフォンに対するアプリなど日々親しんでいるにもかかわらず、思い至らなかったというのが、非常に恥ずかしいと思いました。サービスでは、様々なポジションが取れることもわかりました。

── 今後、どのように宇宙旅行の事業を展開していきたいとお考えですか?
海外ではホテルの所有と、サービスの提供が完全に分かれているのが当たり前です。ホテルを「建てる」というハードは、もちろん重要な部分です。ただそれは投資家にお金を出していただいて、サービスという面で、リターンを返していきたいと考えています。
地球を俯瞰する視点に立って、お客様と体験や気づきを共有し、導いていくために、月あるいは地球の外に出て、青い地球を見ることにこだわりを持っています。なぜ月に行くのか、なぜ月に宇宙旅行する必要があるのか、というのは、なぜ熱海に行くのか、と同じことだと思います。それをお客様にわかりやすく提供していきながら、日本人ということも生かしたいと思います。
日本のもてなしの文化や、月に洋風のホテルではなく、和風の旅館があることが月旅行では大きな意味を持っています。かぐや姫や竜宮城のイメージは、日本人にとってはどこか懐かしさがあり、外国人にとっては「月にきた」プラス「日本の昔のものがある」というバリューとなり、それらを組み合わせながら進めていきたいですね。

プロフィール

加藤 太郎(かとう たろう)
Galactic Market代表。早くから起業を志す。現在、名古屋でWeb制作会社、ブルーアイズ株式会社を経営しながら、宇宙旅行事業で活動中。ASTRAX月面シティのメンバーで、初代市長も務めた。
Galactic Market
http://space-travelt.com/